フードビジネスコンサルタントとしては初心者マークの私ですが、この1年間で素晴らしい出会いがあり、オーストラリア、アメリカ、中国、フランス、もちろん日本で活躍されている方々からお話を聞く機会に恵まれました。
どんなビジネスでも基礎の形をしっかり学べば、応用が利くものですが、
フランス料理を教え、伝え、発展させる仕組みは、他の国の料理と少し違うレベルにあり、日本のフードビジネスでも学べることがたくさんある事に気付かされました。
えっ!?そんなことないわ、スペインや北欧の方がよっぽど、雑誌や話題になるシェフがいて、お店が賑わっているわよ、とお思いの方が多いと思いますが、一時の流行ではなくビジネスとして長期に渡り収益を得ていくという点で見ていくと、彼らに学ぶべき事はとても多いと思います
さて、そのフランス料理発展の3つの理由はこちらです。順にご紹介していきましょう。
理由①伝える「再現できる詳細レシピで伝える」
理由②教育する「レストランで働く人を教育し、地位向上を推進」
理由③市場調査する「国が推進し、世界のレストラントレンドを確認」
理由①伝える「再現できる詳細レシピで伝える」
フランスは、約500年前から、国が食の情報をまとめさせていました。歴史的に、フランス料理が先か、イタリア料理が先かという議論になる事もありますが、そんな論争があったからでしょうか。当時、ラテン語の書物が一般的であったのにもかかわらず、14世紀にフランス語で書かれた最初の料理本「Le Viandier」ヴィアンディエが出版されました。著者は料理人Taillevant ,(本名ギヨーム=ティレル・タイユヴァン 1310〜1395年)、今ではパリの有名レストラン名として知られています。
その後、1651年にラ・ヴァレンヌが著書「フランスの料理人」を発表。英語にも翻訳されたこの本は、その後100年間で20万冊も売れて、広くフランス料理への認知が高まりました。
当時、貴族の料理だったフランス料理は、1789年フランス革命後に民衆へ広がります。
職種が厳しく規制されていた宿屋、シャルキュトリー、酒屋(ワイン醸造)などの人たちと、貴族の元で料理を作っていた人、サーヴィスを仕切っていた人が街へ出て、レストランを作り始めたからです。
フランス革命から7年後の1796年、パリ市内には4300軒以上の高級レストランや、居酒屋(キャバレー)があったそうで、その発展スピードの速さに驚かされます。当時、平民の新興勢力(ブルジョアジー)がレストランへ競って押しかけ、美食ガストロノミーを楽しみました。そして、今日までその豊かな食文化は受け継がれています。
もしパリに行かれたなら、パリ最古のレストラン「A la petite chaiseラ・プテイット・シェーズ」(創業1680年)で当時の美食家たちの気分を味わってみてはいかがでしょうか。フランス人が大好きな前菜「フォアグラ」に甘い貴腐ワイン、ロゼ色の「鴨肉のソテー」にボルドーの赤ワイン等、コース料理がリーズナブルで、35ユーロです。決して現代的ではなく、当時のレシピで作られているフランス料理ですが、フォアグラの下処理が丁寧だったり、肉の焼き色がとても美しくて、技術力の高さに驚かされます。
理由②教育する「レストランで働く人を教育し、地位向上を推進」
アラン・デュカスに、ポール・ボキューズ、ジョエル・ロブション
皆さま、一度はお名前を聞いたことがあるでしょう。世界的に有名なトップシェフであり、経営者、指導者である彼らの社会的な地位は、日本における料理人の地位とレベルの違いを感じることがあります。
その仕組みの一つ、フランスではレストランに関わる人を鍛え、その成果を表彰する制度、たとえば国のプライドをかけて競うフランス料理のコンクール「ボキューズ・ドール」や、MOF(国家最優秀職人章)や、L’ORDRE DU MERITE AGRICOLE(農事功労章)等があるからです。日本では表彰されても、お店の看板に表示はしないことが多いのですが、フランスではMOF職人のいるお店の看板はフランス国旗のトリコロールのマークをつけることができ、街で他のお店との違いがとてもわかりやすく表示されています。
また、食文化や流行を作っていく彼らの影響力はとても大きいため、地域の商工会議所や、フランス食材の生産者、スパイス、食器メーカーなどが教育支援を行っています。レストランで働く料理人、菓子職人、パン職人、サーヴィス、ソムリエ等が勉強する機会をつくるため、活動資金で支援し、国籍を問わず良いスタッフを数多く育てます。時間がかかっても、教育を行い、レストランで働く人を育てることが、食材の普及と合わせて、フランス料理の発展にもつながるため、その協力体制はとても強固です。個人主義でクールだと思われていますが、師弟関係においては、情の深いフランス人の一面に触れることがあり、感動秘話を聞かせていただくことが何度もありました。
理由③市場調査する「国が推進し、世界のレストラントレンドを確認」
レストラン格付けといえば、赤い本の「ミシュラン」や、黄色い本「ゴー・ミヨ」が有名ですが、フランス外務・国際開発省が発表する、世界ベストレストラン・ランキング「ラ・リスト1000」はご存知でしょうか。先日、2016年12月17日に発表された結果をみると、国別レストラン数では日本が127件でトップ、次いでフランス118件、アメリカ101件、中国69件、スペイン52件でした。
実はこの本、単なるレストランの格付け本ではなく、世界のレストラントレンドを客観的に評価しているため、フードビジネスの関係者がご覧になれば、料理の流行や、目指すべきレストランの姿など、戦略を練るためのデータにもなるので、オススメします。
また、フランス料理は有名な料理コンクールがいくつかありますが、シェフを育てているだけではなく、審査員も育成しています。食材や料理方法、サーヴィス、食器などの評価基準を統一し、見極められる人材を育てています。そうすることで、世界各国の料理のレベルや、シェフの力量、トレンド等を公平に評価することができていますし、その基準に基づいて部下を育成していきますので、目標が明確にしやすく、複雑なフードビジネスの世界でも、成長の実感が得られる工夫がされているのです。
日本はフランスと同じく、レベルの高い食文化があります。だからこそ、ラ・リストで最も評価されているレストランが多いのですが、意欲のある従業員の長時間労働に支えられギリギリの経営をしている店や、教育も個人の判断や経験に基づき行われているなど、向上の余地があります
今後、国や、都道府県、地域全体で、長期ビジョンに基づき、レシピを作成・公開し、人材を育成、コンクールや表彰制度の認知度向上、日本独自基準で判断される世界のレストランランキングが発表できるようにすることで、日本の食ビジネスの長期的な発展や、安定したフードビジネスの経営が支援できると考えています。