先日、トランプ大統領御一行がパレスホテル東京に宿泊していたことが、話題になっていました。迎賓館や、帝国ホテルではなく、なぜパレスホテル東京だったのか。多くの方がなぜ?と感じたかもしれません。
世界的に権威あるトラベルガイド「フォーブス・トラベルガイド」で、パレスホテル東京が日本が4年連続で5つ星 (World’s Best Rooms)と評価されていた事と合わせて、パレスホテル東京の衛生管理システムは病院並みで、東京の他のホテル・宴会場とは一段上のレベルであることも大きな要因と考えています。
7年前、従来のホテルを建て替えて、新しいパレスホテルがオープンしたときに導入されたヨーロッパ基準の衛生管理。海外からの要人を受け入れる際には、仕入れから提供までを見える化(明文化)して、各重要管理工程の状況を記録し、安全な食品が提供されていることを説明しなければなりません。
ヨーロッパや北米では当たり前のように行われている衛生管理のシステム化でしたが、日本では初めての取り組みでした。しかし、当時は福島工業のHACCPマスターをホテルで使うと聞いたとき、新しい時代になってきたと感じましたが、それほど驚くことはありませんでした。
というのは、病院や学校給食センターの新設物件には、必ずというほど使われているシステムだったからです。
しかし、7年経った今でも、このHACCPマスターで食材の受け入れから、調理、提供までの一連の管理を行なっているホテルは、パレスホテル東京だけです。
その原因の一つが、レシピのデータ化です。
原材料に潜む、食中毒リスクを管理するためには発注する購買担当と、厨房の検収担当が連携しなければなりません。しかし、ホテル・宴会場の日本料理や、中国料理では現場の判断で日々、食材を仕入れていることが多く、購買部が食材の種類や、仕入れの衛生管理状況を確認(見える化)することへの抵抗が強いのです。おいしさは担保されているのかもしれませんが、食材由来のリスクを見える化することができず、安全であるという証明を提出することができません。
私はフランス料理から、ホテルレストランの仕事に携わることになったので、レシピのデータ化は当たり前だと思っていました。多くのフレンチレストラン、パティスリーで、レシピのデータ化は調理工程を管理するために、普通に行われています。でも、それはヨーロッパや北米の基準に則り、慣習として行われていたので当たり前ですが、日本料理や、中国料理の料理人にとっては、食材発注を他人に委ねたり、作業工程が全ての人に分かってしまうので、自分たちの既得権益を奪われること繋がり、抵抗があるのです。
とはいえ、要人が集まる国際会議や、国際的なイベントが次々と予定されている日本において、このままで良いはずがありません。少なくとも、国際的に認められ、海外からのVIP客を招きたいと考えているホテル・レストランオーナーであれば、当然の事として、衛生管理のレベルをヨーロッパ、北米基準にしなければなりません。レシピをデータ化して、必要な食材の種類や作業フローを明確にする必要があります。さらに作業工程を分解して、それぞれの工程におけるリスクを示し、作業指示書を作成します。面倒だと思われるかもしれませんが、作業指示書は慣れてしまえばレシピが変わっても、ほとんどコピー&ペーストで作れるので、それほど難しいことではありません。
日々の記録作業の負担や、信頼性を気にされるオーナー様には、HACCPマスターなどの調理工程を管理するシステムを導入されることをお勧めします。作業指示書や、確認も手書きする必要はなく、調理中に自動で温度計測、報告も自動で帳票が出力されます。作業者の意図が入らない記録なので信頼性が高く、作業負担も軽減することができます。
パレスホテル東京は福島工業HACCPマスターをお使いですが、ホシザキ、フジマックなど、冷機器、加熱機器には同様のシステムがあります。病院、給食センターなどでは一般的なシステムなので、現在、お使いの厨房機器メーカーにお問い合わせください。
一方、街の飲食店、小売店など、小規模の事業者さまはホテルレベルのシステムは不要なので、厚生労働省の「食品等事業者団体による衛生管理計画手引書策定のためのガイダンス」と食品関係業種団体が作成した「業種別手引書」を参考に、毎日作業手順や、厨房機器の稼働状況について、10分程度の記録をお勧めします。
HACCPの考え方を取り入れた手引書は、各業種ごとに厚生労働省のホームページで公開されています。
厚生労働省
(1)HACCP(ハサップ)
HACCPに関する厚生労働省の入り口(ポータルサイト)です。様々なHACCP情報を見ることができます。
(2)食品等事業者団体が作成した業種別手引書
厚生労働省の「食品等事業者団体による衛生管理計画手引書策定のためのガイダンス」と食品関係業種団体が作成した「業種別手引書」を紹介するものです。
先日、元明治記念館調理室の代表取締役で、現在は食品衛生管理実践研究会 代表としてご活躍の田中さんからご紹介いただいた「食品衛生管理ファイル」は使いやすく記入しやすいので、オススメです!一般社団法人東京都食品衛生協会が東京都からの受託で作られた手引書で、厚生労働省から認められている管理ファイルです。