2010年、私は前職東京ガスの業務用厨房プロモーション担当になり、フランス料理で使われる厨房機器の美しさや、繊細な火入れを可能とするプロフェッショナルな機器、そしてフランス料理文化センターのご縁で多くのグランシェフや、サービスパーソンに出会いました。レジス・マルコン、ティエーリー・マルクス、中村勝宏、田中健一郎など、著名なトップシェフが頻繁にショールームへ来訪、サービスコンクールで世界一になった宮崎辰さんがコンクール前に熱心に練習を重ねていた姿を見ながら、仕事をさせて頂く機会もありました。
改めてご存知の無い方もいらっしゃるので、簡単にご紹介します。前職で勤務していた東京ガスは、1990年、パリ商工会議所が日本におけるフランス食文化の振興をめざしてフランス料理文化センター(FFCC)を開設しました。当時の東京ガスパリ事務所がパリ商工会議所から頼まれて、日本にフランス料理を広めるため、FFCCを作ったと聞いています。2010年は汐留に業務用厨房ショールーム「厨BO!SHIODOME」がオープンした年で、それまで活動していた新宿ショールーム2階から引っ越してきたタイミングで、私が担当することになりました。
FFCCは「日本におけるフランス食文化の振興と発展を目指す」という理念のもと、パリ市 イル・ド・フランス地方商工会議所が運営する、食のプロフェッショナル養成学校「フェランディ・パリ」と提携。フランス料理、ブランジュリー・パティスリー、サービスのプロ向けの留学コースを実施し、ホテルやレストランの副料理長、副支配人クラスの人材教育を担い、500人以上の卒業生を送り出してきました。フランスでの教育を終えた彼らは、日本各地で料理長として活躍し、料理長として部下の育成に励む人、コンクールで優勝する人など、輝かしい実績を残しています。
また、FFCCはフランスとの太いパイプを活かして、数々のトップシェフ、サービスパーソンを日本に招聘し、講習会や食にまつわるイベント、コンクールを開催してきました。来年は設立30周年、関わってくださっている方々とお会いできるFFCC同窓会クラブ「アミティエ・グルマンド」に集まっている方は、パリやフランス各地で研修を積み、フランスでのコンクールで入賞経験がある方が多くいらっしゃいます。他の国内フランス料理団体と異なる点は、FFCCはパリ目線であり、コンクールやセミナー主体で、日仏の交流を牽引してきた事です。長年、代表を務められてきた大沢晴美さんの華やかで、社交的なお人柄は、多くのフランストップシェフと日本人トップシェフの交流を生み、意欲と技術力のある若手のシェフが次々と育ちました。インターネットの無い時代から、大沢晴美さんの人脈で、フランス料理に関わる専門職の育成方法のノウハウや、トレンドを収集し、同じタイミングで日本人のフランス料理人や、各種専門職を育成できた「フランス料理文化センター」のフランス料理発展への貢献は非常に大きいものがあったと思います。
私の仕事は業務用厨房のショールーム担当として、FFCC以外にもプロモーション全体の責任者として、毎週プロフェッショナル向けのセミナー開催し、セミナールームやメイン厨房、ダイニングでは営業担当が毎日の様にお客さまをお迎えしていました。年間6000名を超える業務用厨房のプロフェッショナルが集う場であり、実のところ、東京ガスの社員はFFCCの活動に無関心な人が多かったのです。しかし、日々FFCCと一緒に過ごしながら、彼らの活動を東京ガス側から眺めることのできる環境はとても貴重でした。私は技術屋だったため、厨房機器の使い方や、どの料理でどんな機器を使うのか、美味しさの追求や、効率を上げるため、どの機器を選ぶのが適切なのか?と見極めたいと思っていました。トップシェフが作る料理は魔法の様でもありましたが、幸い、手順が書かれた詳細なレシピを読み、数時間に及ぶ調理行程を見せて頂く機会に恵まれ、美味しさを作る技術の裏側を支える機器の仕組みや特徴を理解し、日本のシェフにも最適な機器の提案ができる様に勉強を重ねることができました。日本料理は厨房をお客様に見せる事は少ないのですが、フランス料理は、どのように作られているのかお客さまに見せることがあります。そのため、道具としての使い勝手はもちろんですが、美しさも兼ね備えていて、ガスストーブ「Molteni」(モルティニ)の美しさには目を奪われてしまう迫力がありました。残念ながら、今は「厨BO!SHIODOME」にはありませんが、国内外の有名レストラン厨房にはモルティニが置かれており、それはトップシェフがいることの証です。