2020年元旦、私が3年間、商品開発支援した北海道産小麦で作ったパンが発売になりました。「パレスホテル東京」北海道ファーム田中屋の「はるきらり」を使ったパンド・カンパーニュと、バゲットです。「パレスホテル東京」スイーツ&デリ(大手町C13b出口より地下通路直結)でどなたでも購入することができます。
パンド・カンパーニュ ホール1200円(税別)、ハーフ600円(税別)
バゲット 420円(税別)
バゲットは皮が薄く、中の気泡がバランスよく仕上がっておりバターも付けなくても、食べ続けられる美味しさでした。カンパーニュは酸味がある今年人気の黒いパンです。ホールはかなりの大きさで、1個購入すれば10名程度のホームパーティでも十分な量になります。ワインと合わせて、チーズやりんごのコンポートを載せて食べるのがお気に入りです。
北海道は本州エリアと桁違いに広い面積の畑で作物を作っています。北海道中小機構からの受託事業で知り合ったファーム田中屋さんや、新篠津村の生産者たちは、様々な工夫を重ね、低農薬で、野菜がスクスクと育つ環境を整えていました。特に、新篠津村は有機 JAS認定を取得している農家が多く、田中さんもその一人です。彼らが考える農産物は安全で美味しいのはもちろん、生産者の農薬アレルギーの心配を少なくできます。また食の安全、地産地消、自給率向上、省エネルギー、農的生活、新しい雇用、スローライフ、コミュニティづくりをしており、持続可能な社会への実現を具現化しようと熱意を持って取り組んでいる生産者たちのグループに所属していました。
3年前、星シェフがファーム田中屋の小麦を試食した際、小麦粉とは明らかに違う香りと食感になるとコメントを下さいました。選んでいただいた北海道産小麦「はるきらり」は、道内でもこの品種を作っている生産者はほとんどいませんので、国産小麦パンを食べ慣れた方でも、はっきりと味に差が出ます。また田中さんは土作りからこだわり、持続可能な栽培方法で作られていたので田中さんが安心して小麦を作り続けられるようにと、生産者(ファーム田中屋)と直接契約し、パレスホテル東京さまのためだけの低農薬「はるきらり」を栽培することになったのでした。
ファーム田中屋の小麦づくりは、まず作物が一番育ちやすい季節「旬」に合わせて種を蒔きます。また、毎年同じ畑で小麦は作りません。同じ作物を続けて育てると連作障害を起こすため、ローテーション(輪作)させています。北海道では、東京では考えられないほど広い農地があり、田中さんは米、小麦、蕎麦、野菜ローテーションさせて作っています。さらに、土に栄養を蓄えられるような技術として、緑肥(からし菜、ひまわり等)を植え、海沿いの塩分とミネラル分を多く含む貝殻や海藻が含まれた堆肥を蒔くことで、土の微生物が団粒構造を作りやすくしています。虫除けや、雑草対策としては、ハーブなどの混植「コンパニオンプランツ」や、燕麦やひまわり等の緑肥を周囲に植える「バンカープランツ」をしています。まるで料理人さんが食材を仕込む様に、手間暇かけて畑で土作りをしています。
2017年より星シェフからのご要望で、生産者(ファーム田中屋)と直接契約し、パレスホテル東京さまのためだけの低農薬「はるきらり」を栽培することになりました。しかし、北海道は2017年、2018年と収穫時期に梅雨のような雨が降り、小麦粉の収穫量が大きく落ち込みました。せっかくのお話でしたが、パレスホテル東京が必要とする収穫量を得ることができず、2年連続で納品はできませんでした。そしていよいよ3年目の2019年夏、北海道に上陸する台風や長雨はなく小麦は目標量を達成しました。
小麦が収穫できて、喜んだのもつかの間、小麦は野菜と違って、物流、製粉会社、卸(倉庫)のネットワークがなければ、シェフへ小麦粉として販売ができず、野菜のように一つの農家が料理人と契約することが難しいことがわかりました。様々な関係者にご相談しましたが、小麦農家がホテルへ直接販売する事例は無く、大きな壁にぶち当たってしまいました。
一方で、小麦農家がシェフへ直接販売するルートが無いというのは、逆にビジネスチャンスがあると考え、野菜や他の食材のルートなどを当たって粘り強く小麦を運んでくださるパートナー事業者様や、倉庫を続けた結果、佐川急便 東京本社 営業開発部 ロジスティクスコンサルティング課の坂本さまに出会いました。こちらの部署は、今まで誰も運んだことの無い商品でも、どのように運ぶのか解決してくださるスペシャリスト集団の部署でした。
また、タイミングよく2019年9月から、前田食品さま(埼玉県幸手市)が有機JAS認証を取得し、ファーム田中屋の「はるきらり」の製粉を請け負ってくださいました。これでワインのように、作り手、収穫年、製粉方法により味が変わることが実感でき、生産者名や品種、収穫年等を記載して出荷をすることができるようになりました。
小麦と塩、天然酵母で作られるバゲットは、小麦の味の良さで美味しさが大きく変わります。シンプルなだけに難しいパンの一つと言われており、国産小麦で焼く、パレスホテル東京のバゲットは星さんのパン職人としての腕が存分に発揮されている商品です。12月に納品された新麦で、約1ヶ月試作を繰り返し、2020年元旦、ようやく関係者の皆さまにご納得いただける商品が完成しました。
地下1階、ペストリーショップ「スイーツ&デリ」で北海道産はるきらりを使ったパンがあります。ぜひお召し上がりくださいね。2022年5月現在、バケット、カンパーニュ、食パン、パン ド ミ プルミエ 「抹茶大納言」にも使われていて、香り豊かなパレスホテル東京らしい贅沢なパンを味わえます。
2020年の販売とほぼ同時にコロナになってしまい、ファーム田中屋さんのパンはあまり大きくお披露目ができない状態が続いていました。
2020年4月以降はコロナ禍でレストランの売上が落ち込む中、パレスホテル東京では生産者である田中さんを救う目的もあり、星シェフが試行錯誤を繰り返して冷凍パンを完成。
2020年6月から販売された「BAKERY BOX」はパレスホテル東京の通販サイトはもちろん、三越伊勢丹の通販サイトでも大人気商品になりました。
https://www.palacehoteltokyo.com/news/nr_20200618-1/
そして、パレスホテル東京「エステール」で人気のパンにも、ファーム田中屋 北海道産希少小麦「はるきらり」が使われています。
https://www.palacehoteltokyo.com/restaurant/esterre/