日本各地の生産者さんとの会話の中で「自分たちが作っている農産品や加工品を、料理人に使ってもらうのはどうしたら良い?」という相談を受けることがあります。いわゆる業界用語「農林水産事業者のマッチング」という仕事なのですが、これがなかなか難しいのです。
料理人は仕入れコストを下げるため、安い食材(B級品)でも、美味しく作る技を持っています。農家さんにとっては失礼な話と思われることが多いのですが、カットすれば元の農産品サイズは関係ないので、料理人は農協、スーパーなどへ出荷できなかったB級品を欲しがる人が多いのです。
普通の人だったら、破棄されるよりB級品が売れるのだから良いのでは?と思う方もいるかもしれませんが、儲けは少なく、忙しい合間を縫って直接販売する手間もかかるので、生産者は訳ありB級品の販売を好みません。フードロスと言われればその通りなのですが、農家は人手が足りていません。利益の低いB級品販売に時間をかけるより、他の様々な仕事で忙しいのです。
一方、農産品生産者は、高級な食材を作れば、高級料理を作っている料理人に売れるだろうと考える人がいます。確かに、一般の人が誰でも知っているような高級食材(松茸、ウニ、ブランド肉など)でしたら高値で売れるでしょう。しかし、一般的にスーパーなどで手に入る野菜の中で、料理人が付加価値を感じて高値で買い付ける農産品は、料理人が提案したいストーリーと、生産者のストーリーや個性が共鳴したときにしか成約にはなりません。外国産しか手に入らなかったものを国産で作る農家が増えていますし、夏野菜のズッキーニの花をビニールハウスで冬場に作り、肉料理の色付けとして使われていることも普通になりました。また、個性の強い生産者と意気投合して、畑全部買います!と行ってくださった料理人さんもいました。料理人は自分のスペシャリテを作るためには、努力を惜しまず、季節を厭わずに発注しますので、条件が合えば高値で売れて生産者は儲かるのです。
では、農産品の生産者はどのように料理人さんのニーズを把握すれば良いのでしょうか?
<付加価値の高い食材を作るヒントを得る方法>
1.料理専門誌やレストラン料理人のInstagramを注意深く見る
検索ワードで自分が育てたい野菜を検索すると、日本だけではなく世界各国の料理写真を見ることができ、トレンドも学ぶことができます。色やサイズ、使いたい時期を確認し、ニーズに合わせて作物の収穫時期をコントロールすることは、付加価値を上げるための基本的なテクニックです。自分の野菜を使ってもらいたいと思う料理人をフォローして、料理の解説などから料理人の意図を汲むこともできます。
2.近隣レストランシェフと直接話をする
料理人と生産者、お互いにできないだろう?と思っていることが多いと思いますので、情報交換することで新しい商品開発のブレイクスルーに結びつけられる事があります。北海道の小麦農家田中さんをパレスホテル東京の星シェフに紹介した時「田中さんの小麦粉をもっと美味しいパンにすることができる!」と、自信たっぷりに話をした事を、今でもよく覚えています。半信半疑だった私達は6ヶ月後パレスホテル東京の厨房に呼ばれて、衝撃が走りました。見た目にも美しく、そしてどれも美味しい数種類のパンが完成したのです。国産オーガニックの小麦粉は、パンにするのが難しい小麦粉だと言われ続けましたが、発酵方法を工夫する事で、他には無いオリジナルなパンが出来上がったのです。
また、さいたまヨーロッパ野菜研究会は、レストランオーナーの株式会社ノースコーポレーションの北さんと生産者が直接話をしているので、本場イタリアに負けない上質な料理が、さいたま産野菜とシェフの腕で楽しめます。
3.料理人向けの農業講習会を開催する
私の師匠、さいたま市在住の農家、若谷真人さんは東京農大出身で、人に教えることが上手な農家さんです。勉強熱心で、料理人さんの話を聞くことも大好きなので、私が管理人をしている見本園を料理人さんに紹介する事を快く受け入れてくださっています。私達の仲間は皆、健康意識が強く、サスティナブルを意識しています。家庭菜園とは違って、指導付きなので、毎週、生産者から指導を受け、おしゃべりをしながら交流を楽しみ、野菜を作り、料理を作り、レシピを交換し、育てる楽しみ、食べる喜びを共有するライフスタイルを送っています。
このような暮らし方は海外でも盛んに行われていますが、実際に毎日の生活として実現できている首都圏近郊グループは少ないのでは無いでしょうか?
今年も春の種まきが始まり、じゃがいも、インゲン、大根、小蕪、水菜、ルッコラ、ミニ人参、ミニ大根、小松菜、トウモロコシなどが可愛らしい芽を出し始め、1ヶ月後の5月中旬ごろから収穫ができます。
コロナの影響で埼玉県内のご自宅で毎日家族のために食事を作っている料理人さんが多いと聞いています。
普段は忙しくて畑に来る時間は無いと思いますが、こんな時だから、生産者と話をしたり、土に触れてリフレッシュしませんか?
もしかしたら、新しい料理のヒントが生まれるかもしれません。
畑の訪問は土日、平日どちらでも調整可能です。石川がご案内しますので、お気軽にご連絡ください。