全ての人々がSDGsを意識した行動が求められる今、農林水産省では「みどりの食料システム戦略」という2050年までの大綱を出し、そのなかで有機農業面積の飛躍的な増加や、オーガニック市場の拡大への挑戦も大きく打ち出されています。
新しいオーガニックの文化・時代が始まろうとしていて、ニュースリリース等で注目していた企業やキーマンにたくさんお会いすることができ、熱気を感じました。
- 展示会概要
第7回 Organic Forum JAPAN~オーガニックライフスタイルEXPO
東京都立産業貿易センター@浜松町 9月16日(金)〜18日(日)
新しく参加された企業も多いそうで、交流の輪が徐々に広がっています。
とはいえ、日本ではまだ黎明期、これから更に盛り上がっていくことでしょう!
貴重な機会にお誘いいただいたノコノコ中川さんをはじめ、来場者の皆様、ご支援いただいた関係者の皆様に感謝です。
合同会社ノコノコ 中川 美陽子さん
大阪在住。生産者さんと食べ手をつなぐ活動をライフワークとするなかで、9年間空庭(ソラニワ) 、大阪ぐりぐりマルシェを運営。当事業を受託。
農林水産省「国産有機農産物等バリューチェーン構築推進事業」
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- 展示会レポート
会場でお話した下記3つのポイントについてご紹介します。
- 一般の方にオーガニックをどのように説明したら良いのか?
- 生産者やJAはどのようにオーガニックに向き合えば良いのか?
- 有機JAS生産に切り替えるなら、今までとは違う販路を探そう!
①一般の方にオーガニックをどのように説明したら良いのか?
「みどりの食料システム戦略」(農林水産省)はオーガニック業界では常識ですが、一般の方にはほとんど認知されていません。海外ではオーガニック食品が日常で選択肢として豊富な品揃えがあることや、国が推進している背景、SDGsやエシカルな消費行動と合わせて説明すると、伝わりやすいです。
東京都では「食育推進計画」持続可能な社会・東京の実現に応える食育の推進(令和3年〜7年度)に基づき、子どもたちにエシカル消費者になることを教育しています。ここでは健康長寿を実現するライフスタイルや、農薬が地球環境に与える影響などを説明しています。
東京都食育推進計画(産業労働局)
(1)健康長寿を実現するライフスタイルに応じた食育の推進
(2)「生産」から「流通」「消費」まで体験を通じた食育の推進
(3)SDGsの達成に貢献する食育の推進
オーガニックを一般へ訴求するなら年配の方より、20代以下の若い方や、子育て世代の30代、40代で教育を受けたことのある方が良いでしょう。農薬使用量の低いものを食べようとする意識が高まっています。また電通の調査では、「エシカル消費」について具体的な内容を知った後では、43.9%が「ぜひやってみたい、もしくはすでにやっている」「興味があり、やってみたい」と回答し、日常生活に取り入れたいと思っています。
*電通「エシカル消費 意識調査2022」では、男性、女性ともに16-24歳がエシカル消費という言葉を知っている比率が高く、年齢が上がると共に意識は低下していく。
オーガニック食品への転換は、ゼロか100%かという話ではなく、2050年に有機25%という目標を30年かけて少しずつ浸透させていくのが狙いです。ドイツやフランスのように、オーガニックへの関心や理解、行動する人が半数近くになり、4回に1回程度、買い物や、食事をオーガニックにしてみようとアクションする人が増えてくると、目標が達成できると考えられています。まずは種類豊富な海外製品が先行すると思いますが、徐々に国産オーガニックは売れる!という意識が広まるでしょうから、有機JAS生産者を繋げて、広げていきましょう。
まずは買ってみて、食べてみて、オーガニックを体験するのもオススメです!
身近な場所でオーガニック食品を買ってみたい方は、大地を守る会などの宅配の他、イオン・トップバリューのグリーンアイオーガニックや、ビオセボン、クレヨンハウス(表参道)も素敵な店舗なので魅力が伝わります。ブースに遊びにきてくれたジャックさんが7月に新設したアリサンパーク(代々木)もオーガニックらしい雰囲気があって素敵です。
大地を守る会
https://takuhai.daichi-m.co.jp/
グリーンアイオーガニック(イオン・トップバリュー)
https://topvalu-organic.force.com/aoa/s/aoaactivities
ビオセボン(フランス発のオーガニックスーパー)
クレヨンハウス(オーガニックレストラン、オーガニックフーズ専門店)
https://www.crayonhouse.co.jp/shop/default.aspx
BIO-RAL(LIFEのナチュラルスーパーマーケット)
http://www.lifecorp.jp/store/bio-ral/
アリサンパーク 代々木(オーガニックレストラン)
②生産者やJAはどのようにオーガニックに向き合えば良いのか?
JAの職員さんがブースに来られて、自分達は農薬を販売しているが、今後ビジネスはどうなるのか?と心配そうに尋ねてきました。確かに農薬を販売している事業者にとって、有機農業が増えてくると、自分達の仕事がなくなるのではと心配になります。
技術革新で農薬を抑える方法は多々提案されています。今後は、自然由来の農薬に切り替えたり、農法にIT技術を取り入れ、農薬使用を減らすことにチャレンジして欲しいと考えています。そして、どのビジネスでも、地球環境への悪影響があると分かれば、若者は自分の将来に不安があるので、その職業を選ばなくなり、自ずと衰退していくでしょう。時代のニーズに合わせてビジネスは少しずつ、変化していくという事を理解し、次の世代へバトンを渡して頂ければと思います。
一方、東京都は、都内の生産者全員が「有機JAS」を取得するのは難しいだろうと考え、平成25年度から東京都エコ農産物認証制度を実施。 東京都の慣行使用基準から、化学合成農薬と化学肥料を削減して作られる農産物を、都が認証する制度です。有機JASにこだわるのではなく、生産地の事情に合わせて、減農薬も認めていく姿勢です。
化学合成農薬と化学肥料の削減割合は、25%以上、50%以上、不使用の3区分で認証します。東京都が生産者を評価するときは、この認証制度に基づき、エコ認証の生産者を表彰し、プロモーションをする時に、東京都生産者の代表になる方を選んでいます。
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/norin/syoku/econosanbutu/econosanbutu.htm
③有機JAS生産に切り替えるなら、今までとは違う販路を探そう!
太田市場の青果仲卸「大治(だいはる)」本多諭社長がセミナーで、自らの企業利益を顧みず、有機JAS生産の販路は、近所のスーパーや卸ではなく、直接エンドユーザーになる企業と契約するのが良いとお話をされていたのが印象的でした。
生産者としては、
有機JAS認証の農産品を生産することで、慣行栽培より収穫量が減少、売上が下がります。さらに認証には手数料がかかります。売価が変わらないとしたら、自分達だけその犠牲を払うのは難しいと言います。
*費用負担分を地域によっては補助金を出しているところもありますので、ご確認ください。
ほとんどの地域はまだ行政が有機を推進していないので、そのときは、SDGsの推進に理解のある一般企業等に支援していただくというのはいかがでしょうか?企業ホームページ等に記載されている「CSR報告書」を見れば、SDGs推進しているか否かは分かります。
SDGsを推進している農業とは関係の無い一般企業や学校法人、クラウドファンディング等で約5〜20万円の認証費用支援を受け、慣行栽培・特別栽培→有機JAS認証に切り替えていくのです。企業は有機JAS生産者への支援をCSR報告書に記載し、SDGsの取り組みを実践しているアピールができますし、福利厚生の一環として農業体験や食育、農産品を購入して社員食堂などで生産者と一緒に食べるなどのイベントを開催します。生産者と一緒に農業に取り組むことで社員のコミュニケーションを活発化し、企業の一体感が生まれたり、社会貢献活動への意識が高まります。
<事例>
A:大企業が企業理念SDGsに基づき、有機農業者CSAを支援
B:大手企業のノベルティとして、有機JA Sの六次化商品を共同開発
C:有名特産品の有機JASは大規模化し、GMS(総合スーパー)を狙え
D:卸が生産者から直接有機J A S原料を調達、菓子製造メーカーへ有機JAS認証商品開発支援
E:地元優良企業から支援を受け、減農薬→有機JAS生産へシフト拡大
F:都市型農業は食育ビジネスや、地域優良企業へ支援を依頼
A:大企業が企業理念SDGsに基づき、有機農業者CSAを支援
エキスポに出展していたロート製薬は、神戸有機農業者CSA推進協議会の活動をトライアルで支援しているそうです。ブースにいらしたロート製薬株式会社広報・CSV推進部 地域連携室 戸崎亘さんに具体的な効果をお聞きしたら、テレワークによるコミュニケーション不足の課題解決に効果があるという話を聞かせてくださいました。神戸有機農業者CSAの野菜を受け取る日を設定することで、若手社員が出社し、コミュニケーションがしやすくなるので、この活動を推進していきたいとおっしゃっていました。次は神戸だけではなく、東京や他の地域でもお願いしたり、他の企業にも広げていきたいですね。
B:大手企業のノベルティとして、有機JA Sの6次化商品を共同開発
福井さんとの事前打ち合わせでお聞きした話です。大手企業がノベルティとして、オーガニック加工食品を企業と一緒に開発して、まとめて購入して頂いた事例があるそうです。ジャムやお茶など、作る前に企業に声を掛け、売り先を決めてから有機J A S農産品を生産するのです。企業名ロゴの入った有機JASの6次産業化商品は、希少価値が高いのでプレミアムな価値を提供できます。オーガニック食品は生産者、農地を増やしていかなければならないという社会的ニーズが高まる今、企業のSDGs活動を具体的に示すこともでき、企業ブランド価値向上の訴求ポイントになります。
C:有名特産品の有機JASは大規模化し、GMS(総合スーパー)を狙え
丹波篠山のYAGATE inc.黒瀬さんは、黒豆が有名な丹波篠山で、他には無い「有機黒豆」を生産し、加工まで行っています。彼らの有機JAS農地が、地域で約25%の栽培面積を占めることから、みどりの食料システム戦略が達成している地域になるとのこと。もしかしたら日本初かもしれませんね。
HACCP認証、有機JAS認証の両方を取得している加工場があることで、多くの小売・流通が関心を示していました。設備にある程度の投資は必要ですが、有機農業ビジネスは小さな農業ではなく、衛生管理を徹底した「大規模農場+加工場」の方が、販路が見つかりやすく、経営が安定するという事業モデルです。
D:卸が生産者から直接有機J A S原料を調達、菓子製造メーカーへ有機JAS認証商品開発支援
名古屋のアルファーフードスタッフ株式会社 浅井さんは国産有機JASジャガイモの「馬鈴薯でんぷん」で「有機たまごぼーろ」などを製造。ベビーフードとして人気です。しかし、国産有機JASじゃがいもが、思うように手に入らなくて困っていました。そこで、ご自身で北海道生産者を訪問し、不揃いなじゃがいもなど規格外品を生産者の所まで取りに行く仕組みを作り、馬鈴薯でんぷんを製造。生産者は規格外品をJAへ出荷する手間が省け、有機JAS品として販売することができるので、これまでよりも倍近い価格で販売することができて、お互いがwin-winになるビジネスモデルを構築されたのです。卸業の方が菓子製造メーカーの有機JAS化を支援したり、生産者と直接コミュニケーションして食材を仕入れまで関わることで、バリューチェーン事業が新たな展開がスタート。時代が大きく変わっているのを実感しました。
E:地元優良企業から支援を受け、減農薬→有機JAS生産へシフト拡大
北海道のファーム田中屋(新篠津村)、北海道函館牧場(千歳市)は、株式会社マテック(「じゅんかんコンビニ」等を運営する廃品回収業)が支援。社員の福利厚生で毎年大量に有機JAS米や、野菜を年間契約することで、生産者の費用負担感を軽減。社員も有機JAS認証のお米10kgや野菜(年間)が貰えるそうです。マテックは子会社で、スーパーの生ごみを堆肥化し、生産者に戻しているそうで、地域で循環型社会を作ることができています。
F:都市型農業は食育ビジネスや、地域優良企業へ支援を依頼
西野農園(東京国立市)は、子育て世代の30代生産者。農薬をなるべく使わない農業を実践しています。彼らは地元企業のFSX株式会社に畑の片付けなどを手伝ってもらう代わりに、収穫時期を過ぎてしまい廃棄予定の農作物を収穫してまとめて持ち帰ってもらうなど、お互いに協力関係を作っています。また人口の多いエリアは、体験型食育ツアーと絡めることで、収益性が改善します。エシカル意識の高い一般の方を相手にするからこそ、農薬使用を抑えた栽培が好まれ、好循環が生まれています。
- 今後のイベントスケジュール
農林⽔産省国産有機農産物等バリューチェーン構築推進事業事務局主催で、9/28(水)京都で生産者ツアー、10/6(木)名古屋でセミナーを開催します。
- 京都オーガニックファーム訪問ツアー
京都オーガニックアクション(KOA)便をご存知でしょうか?
京丹後から京都市内までオーガニック野菜を流通させる先進的な取り組みで、複数の小売店と生産者が直接取引できる共同物流便事業が、2017年から始まっています。
今回、農林水産省国産有機農産物等バリューチェーン構築推進事業として、KOA便を使っているオーガニック生産者を訪ね、有機農業の現場や、野菜など農産物について詳しく学びながら、交流するツアーを開催します。
日時:9月28日(水)8:30〜18:00 京都駅発着バスツアー
訪問先:
京丹後 ビオ・ラビッツ(株)(てんとうむしばたけ) 農園見学
Organic café「てんとうむしばたけ」農園ランチ
京丹波 「京の丹波 野村家」見学
南丹市「オーガニックファーム coco de planters」見学(お米、野菜)+ミニ交流会
- 第1回T O K A Iオーガニック つなげる・食す・育てるの会
名古屋市内でオーガニック食材の卸・小売や開発を行われているアルファフードスタッフ浅井様に、オーガニック市場と自社の取り組みについてお話いただき、また、浅井様とつながる様々なオーガニックの作り手の皆様もご登場。おいしく食べながら、楽しく繋がる会になればと思います。ぜひご来場ください。
日時:10月6日(木)14:30〜16:30
場所:ホシザキ東海 本社テストキッチン 愛知県名古屋市中村区名駅5丁⽬21ー3
講師:
アルファーフードスタッフ 常務取締役 浅井紀洋氏
1983年名古屋生。ソフトバンクグループ、伊藤忠商事株式会社を経て、2014年に家業のアルファフードスタッフ株式会社に入社。世界12か国から直輸入するオーガニック食品を強みに食の持続可能性を追求している。
ホシザキコーポレートシェフ岩渕将明氏
「エノテカ・ピンキオーリ」にて料理の世界に入り、マンダリンオリエンタル東京フレンチメインダイニング「シグネチャー」に10年勤務。2015年よりホシザキ㈱コーポレートシェフとして現在に至る。
協力:
土磨自然農園 代表 横島龍磨氏
自然栽培で西洋野菜・伝統野菜を中心に年間約200品種を栽培。伊・仏レストラン、個人向けに販売。農園のポリシー「お皿の中から世界と未来を変える」
有限会社青山商店 青山次郎氏
「もったいない」を合言葉に食品製造副産物を飼料に。5年前より有機飼料の販売開始、3年前よりオーガニックビーフの生産と販売に取り組む。
株式会社長良園 代表取締役 市川嘉宏氏
2019年有機JS認証を取得し、オーガニックの概念を商品作りだけでなく、事業運営においても実践していくべく奮闘中。食いしん坊。頭も肉体も改造中。趣味はMTBとスノーボード。
フードビジネスプロデューサー 石川史子
農林水産省「みどりの食料システム戦略」の有機JAS(オーガニック)について、フードビジネス業界のリーダーを繋げて、広める活動をしています。