滋賀県農業技術振興センターが何年も努力を重ねて開発に成功した近江米「きらみずき」。夏季の高温等の気候変動による収量や品質の低下等を防ぐことができ、味や品質も高い有機JAS米を作ることができる品種です。さらに滋賀県は「きらみずき」の栽培方法を、栽培期間中に化学肥料(窒素成分)と殺虫・殺菌剤を使用しない“特別栽培”、または“有機JAS”に限定して、2024年秋から新発売します。
今回、五つ星お米マイスターの秋沢毬衣さん(株式会社山田屋本店)と一緒に、滋賀県「きらみずき」首都圏ブランディングプロデューサーとして、「きらみずき」の有機JAS米を生産している中道農園株式会社 中道唯幸さんの圃場見学とお話を伺ってきました。
中道さんはお父様の代から長年、有機農業に取り組まれている生産者です。お父様の時代は、ヨーロッパには行くことができなかったそうですが、北海道の生産者から有機農法や、建物のデザイン等を教えてもらい取り入れたそうです。
中道農園(滋賀県野州市)は、お米づくり一筋200年。持続可能な農業で自然との共存すること。そして、未来の子ども達に豊かな自然と食の安全を継承することを目指し、琵琶湖のほとりの自然豊かな大地で、有機JAS米を栽培しています。中道さんは、有機栽培のメリットや苦労、そして「きらみずき」の魅力についてお話を聞かせてくださいました。
写真)滋賀県プレスリリースより https://kyodonewsprwire.jp/release/202310060736
中道:「おいしいお米コンテストでは滋賀県の品種“ゆめごこち”で優勝したのですが、去年試験栽培の“きらみずき”を試食してみて、“きらみずき”の方が美味しかったのです。味はひとくち目からインパクトのある味わいで、大粒でしっかりとした食感。すっきりとした甘さが特徴で、噛むほどに甘さが広がります。さらに、県外の方を含むオーガニック仲間との勉強会で、ブラインド試食会を実施した結果も“きらみずき”がダントツの1位でした。そんな生産者中道さんイチオシの品種「きらみずき」がいよいよ今年の秋デビューします。
中道:「有機栽培とは、環境負荷の高い化学肥料や農薬を使わずに、自然の恵みに頼って作物を育てることです。稲にとって都合の良い環境を作り、同時に病気や虫にとって都合の悪い環境を作っています。その環境をつくるのは微生物なので、土壌の微生物や虫などの生態系を守り、琵琶湖を守りながら農業を行っています。自然にも、身体にも安心で美味しいお米です」
「近年の異常気象の影響もあり、米作りは難しくなっています。しかし、「きらみずき」は、病害虫に強く、収量が安定しています。夏季の高温等の気候変動による収量や品質の低下等を防ぐことができ、味や品質も高い有機JAS米を作ることができる品種です。滋賀県が開発した新品種として、近江米の伝統を受け継ぎながら、新しい可能性を広げたいと考えています。」
中道農園の広々とした田んぼには、様々な生物が共存し、「きらみずき」の稲が揺れていました。お米の成長を見守る中道さんの顔には、優しさと美味しさの自信が溢れていました。
中道:「“きらみずき”は、有機栽培に最適な品種です。私たちは、このお米を通して、滋賀県の自然や文化を皆さんにお届けしたいと思っています。是非、一度ご賞味ください。きっと、お米の新しい魅力に出会えるはずです」
中道農園の「きらみずき」は、ホームページからもご購入いただけます。詳しくは下記URLをご覧ください。
なぜ、滋賀県は47都道府県で初めて、有機JAS米を推進できたのか?その背景
滋賀県が環境保全型農業の取組面積割合 29.2%とダントツトップ。
農水省による環境保全型農業直接支払交付金の実績(農水省発表)より、環境保全型農業の取組面積割合を算出し、他県と比較したのが下記グラフです。当該交付金の支払実績(面積)は北海道が一番多くなりますが(滋賀県は2番)、面積割合では滋賀県が一番となります。
環境保全型農業の取組面積が耕地面積に占める割合
令和4年度 環境保全型農業直接支払交付金の実施状況(農林水産省)をもとに滋賀県が作成
〇有機肥料による温暖化防止効果 (滋賀県農政水産部 みらいの農業振興課 食のブランド推進室 マーケティング係 主査 山崎 博貴様より頂戴しました)
以下に、農水省の資料を添付します。2ページ目右上に有機農業の温室効果ガス削減量(0.93tCO2/ha/年)が記載されています。この数値は有機農業と慣行栽培の比較になります。
資料中に具体的な計算根拠までは記載されていませんが、おそらく下記のような効果を積算の根拠としているかと思われます。
・有機質肥料の散布による炭素の土壌への固定
・化学肥料の使用による温室効果ガス(一酸化二窒素など)の増加
※一酸化二窒素は二酸化炭素の300倍の温室効果
・化学合成農薬や化学肥料製造時のエネルギー消費
従来、有機JAS認証の農産物は、ごく一部の狭い地域で行われることが多かったのですが、滋賀県は「きらみずき」の生産を通じて、滋賀県全域にオーガニック農産物を拡大させようとしていると聞き、日本の次世代オーガニック時代の幕開けをぜひ応援したいと思いました。
今回、滋賀県庁を訪問し、関係者の皆さまからお話を伺うと、「琵琶湖を守るため」の活動が1970年代後半から市民運動として取り組まれていることで、有機JASへの流れは、ごく当然というスタンスでした。慣行農法の生産者からかなり反発があったでしょう、とお聞きしたらそうでもないです。
琵琶湖の淡水赤潮の発生を機に、主婦層を中心に合成洗剤の使用をやめて粉石けんを使おうという運動、いわゆる「石けん運動」は、琵琶湖の水環境を守るための市民による地域の環境保全活動として、現在でも継続されています。自分たちの営みが、自然に対して悪影響が無いように、手間暇を惜しまず、コストがかかっても他人任せにせずに、自ら実施するという姿勢で50年近い歴史がある地域だったのです。
海外では当たり前になりつつある考え方ですが、日本でこの考え方が浸透している地域があることがとても誇らしく思いました。紫式部が源氏物語を描いたのも滋賀県にある石山寺と言われています。100年、1000年先の人たちも今と変わらず、食べ物を作り豊かな暮らしができますように。滋賀県の取り組みを、首都圏の皆さまにしっかりお伝えできるよう、頑張ります!