滋賀県のシェフツアーの中で、野田シェフのご要望もあり滋賀県の発酵食文化を学ぶため
「滋賀の食事文化研究会」事務局 堀越 昌子さんを訪ねました。
- 山野の恵みが酸し出す滋賀の食文化
平野部では豊かなお米、麦、野菜、豆類、芋類が育つ - 琵琶湖の幸と滋賀の健康
- 琵琶湖の魚介で骨太、長寿
- 滋賀県特産物調査(平成19年3月実施)
- 伝統野菜
- 滋賀の発酵食品野菜の漬物
- 琵琶湖の魚とお米で醸したナレズシの多彩さ
- 滋賀県の「健康長寿命」を達成していくための食生活
和食型食生活で健康維持
滋賀・長浜の食文化「食まなび館」


先祖代々受け継がれている食文化を大事にしている滋賀県は、男性の平均寿命で全国1位、女性の平均寿命でも全国2位と、長寿の県として知られています。
滋賀県で様々な食体験をしていると、関東の私にとっては、塩分の少ない優しい味の食べ物が多いと感じると共に、古来から伝来する発酵食品を食べている高齢者が多いことも長寿の秘訣と感じました。
滋賀県の仕事で、生産者、料理人、専門家にお話を聞く機会があり、日本古来からの伝統的な食文化が残る滋賀県を知れば知るほど興味深いと感じていて、深掘りをしています。
鮒寿しについて、アカデミックな領域で書かれている書物が少なく、今後の研究に期待すると共に、現時点で分かる範囲を記録として残しておきます。
滋賀県の伝統的な発酵食品「鮒寿し」発祥起源について
タイから中国の雲南省にかけての地域、メコン川流域で、鮒寿しをはじめとする熟れ寿司(なれずし)は、おおよそ1400〜1500年ほど前に稲作とともに日本に伝来したと考えられています。
現在では琵琶湖周辺の名産となっていますが、かつては日本の各地で作られており、使われる魚も鯉や鮎など多彩な種類がありました。大阪の堺のものが年貢として納められていたという記録も残されています。
鮒寿しは古くから伝わる食品で、作り方もシンプルながら非常に手間暇のかかるもの。

滋賀では琵琶湖の固有種・ニゴロブナを使います。まず、春先の産卵期を迎えた鮒の鱗とえら、内臓を丁寧に取り除き、水洗いした後で塩漬けにします。夏の土用の頃になったら塩漬けとなった鮒を取り出し、丁寧に塩を洗い流して、再び水気を取り、これに炊いたご飯をしっかりと詰め桶の中に敷き詰めて蓋をし、重石を乗せたら蓋の上に水を張ります。鮒寿しの発酵に使われる乳酸菌は、嫌気(けんき)性という酸素の少ない場所で活発に働きます。更に言えば、鮒寿しの発酵の邪魔をする雑菌の多くは酸素を好みますので、水によって酸素が桶の中に入らないようにすることで有用な菌は守り、不要な菌の活動を抑えてあげるわけです。

さらに、鮒をつける夏の土用頃の気温は乳酸菌の発酵に最適で、乳酸菌の発酵によって酸味とともにどんどんと旨味が増えていきます。
手間のかかる鮒寿しづくりですが、使用される食材は、魚・米・塩・水と非常にシンプル。琵琶湖周辺で鮒寿しが今もなお、盛んに作られている理由の一つがこの材料にあります。
鮒寿しに使われる「ニゴロブナ」は、地域によっては“イヲ”と呼び、琵琶湖の水深の深いところに棲んでいる、獲ることの難しい魚です。(琵琶湖八珍)
https://shigaquo.jp/hacchin/column/column02.html

唯一、春先だけは産卵のため琵琶湖に注ぐ川を登って水田を訪れます。この時に遡上する鮒によって水面が大きく浮き上がる様子を琵琶湖では“イオ島”と呼び、普段は農業をしておりこの時期だけ鮒を獲る人々のことを“にわか漁師”と言います。こうした言葉ができるほど、琵琶湖の人々にとってニゴロブナの遡上は、おなじみの風景だったわけです。
また、この産卵期のニゴロブナは、卵に栄養を取られているため身に脂が少なく、長期間保存しても脂が酸化して味が落ちることがありません。
田で獲れる熟れ寿司に最適な鮒を、田を潤す水で清め、同じく田で獲れる米を詰めて漬け込む。鮒寿しは、湖ではなく田んぼから生まれるのです。
塩は福井県の若狭から京都への「塩の道」を通って、やってきます。街道沿いの高島地域は、食材が揃っていたことから、琵琶湖の鮒寿しづくりを盛んなものにしたのでしょう。
今では少なくなりましたが、琵琶湖周辺では、それぞれの家で鮒寿しを仕込んでいます。7月の土用の頃に販売されている「塩切鮒」を購入すると、自宅で作ることができます。
湖北地域は、冬になれば1m以上の雪が積もる豪雪地帯。この寒い気候で低温熟成されることで、濃厚な旨みで、丸みのある鮒寿しが出来上がるのです。酒の肴だけでなく、消化がよくアミノ酸も豊富であることから、お腹が痛くなった時や滋養をつけるための常備薬としても利用しています。
<参考文献>
田から生まれる伝統の「鮒寿し」
老舗「魚治(うおじ)」(マキノ・天明4(1784)年創業)
7代目店主の左嵜謙祐(ささき・けんすけ)さんのインタビュー
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/AIl6X
北村真里子氏 老舗「総本家喜多品老舗」18代目(元和五年(1619年)江戸初期創業)
「発酵するまち、高島。」ならではの鮒鮓を作って400年
https://hoshinoresorts.com/jp/mag/kounou/15
ふなずしの変遷
小堀健将 京都先端科学大学