飲食業に携わる人の多くは、プロデューサーつまり、アーティストとして活躍したいと夢を見ている人が多いのではと思います。レストランは、考えなければならない事の幅が広く、またそのお店をプロデュースされる人の考えている事全てがレストランに出てしまいます。お店全体のコンセプトはもちろん、全国の生産者さんが作るこだわりの食材、調理人、厨房機器、サーヴィス、インテリア、皿、グラス、カトラリーなどは見える部分として当然ですし、HACCP対応や光熱費、人材育成もしっかり考えなければ、継続して営業する事は難しくなります。
では、どのようにしたらプロデューサーは育つのでしょうか?
レストランで働く誰もが下積み時代を経験し、指示されたことを手で作業する料理人やサーヴィスとして、職人からスタートします。そのうち時間が経過するに従って、自らの頭で考え、プロデューサーとして頭角を現わす人が出始めます。料理人かプロデューサーか、多くの方が働き方に悩まれるかもしれませんが、お客さまのニーズが多様化し、レベルもどんどん上がっていく食の世界は、全体を俯瞰しつつ、細かい戦略を考えていくプロデュースできる人材がいないと、成功することはとても難しいのが現実です。飲食業で働く人は流動的と言われる事も多いのですが、いつかは自分のお店を作りたいと思う人は、勉強できる現場を探して転々と職場を変える方も多くいます。その結果なのかもしれませんが現在、都内様々なホテルの総料理長になっている方の多くは、元ロイヤルパークの総料理長嶋村光夫ムッシュのお弟子さんが多かったりします。
優秀なプロデューサーは厨房機器についても最新情報を収集しています。例えば、スチコンの性能には、多少の使い勝手の違いはあるものの、好みの違いだけです。そうすると重要なことは食材の選択「品質、美しさ、味」や付加価値提案です。万能調理機器ですが、効率的に多種多様な料理を美味しく調理をするために使いこなしていると言えるのは、まだごく一部なのでは無いでしょうか。各社のスチコンセミナーでは、お客様の業種、職種に合わせてセミナーを開催していますので、積極的に情報を取りに行く事も大切です。
先日、ちょっとガッカリに感じたレストランがありました。それは、テーブルにデザート用のカトラリーまで置かれていたのです。前菜、メイン、スープまでは良いとしても、デザートの小さなフォーク・スプーンまで置いてあると急におもてなし感がダウンします。定番メニューのあるステーキハウスなど、お客さまがいつもの味、いつもの料理を期待して来るタイプのレストランなら良いのですが、フランス料理の醍醐味は毎回違う、驚きの料理が楽しめる事であり、レストランは舞台です。また、そこで始まるワクワク感を高めるためのちょっとした工夫が大切で、お皿を下げて、次のメニューを出す前のコミュニケーションタイムも重要です。
時間がない、人がいない…そんな言い訳も聞こえてきそうですがが、サーヴィスはお客さまの好みを覚え、場の雰囲気を作り、また行きたいなと思う気持ちを作る役割があるのです。フランス料理のコースは3時間以上になります。お客さまとの接点機会が増えれば増えるほど、その店のファンを増やすことができます。特に、メインディッシュの余韻がある時間は満足度も高く、そのタイミングでお客さまとのコミュニケーションをする事で、次への大事なつながりを作ることができるではないでしょうか。
先日、オーナーシェフと親しくさせて頂いているレストランで「新人サーヴィスが入社したので、よろしくお願いします!」と言われ、私たちの席を担当することになりました。まるでテストされているかのように緊張する若い彼。皿を間違って右側からサーヴしてしようとしたので、「料理は左から」「ワインは右から」と小声でアドバイスをしました。オーナーシェフは厨房にいるので、こちらは見えていませんが後で何かお話されたのかもしれません。美味しいワイン頂き、メインディッシュが出される頃には、新人サーヴィスさんの笑顔が増え、会話も弾み、楽しい時間を過ごすことができました。よくお客さまに育てて頂くと言いますが、サラリーマン時代、私も営業先の課長さんに色々教えて頂きました。男性の多い厨房やレストランサーヴィスの世界なので、意外と異性の方が伝えやすい事もあります。私もお節介おばさんの年齢になってきました(笑)。プロデューサーであるオーナーシェフを助けつつ、客席や厨房から、気づいたことはやさしくお伝えしていきたいなと思っています。