びえい農泊DX協議会 事務局長 石川史子です。農泊DXについて、業界誌に原稿執筆を依頼されたので、書きました。原稿は1400字までの予定ですが、3000字になってしまったので、削る前の状態で記載しておきます。
農泊(Countryside Stays Japan)
宿泊業や飲食業の方でも「農泊」を知っている人は少ないかもしれない。
農泊とは、 農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」 のこと。実は、農家に泊まる必要がなく、農業体験は必須ではない。食事・宿泊・体験がセットで、自転車やハイキングで農山漁村地域を周遊する旅も「農泊」、既存のホテル・旅館に泊まっても「農泊」なのだ。農泊の醍醐味は生産者と出会い、地域の食を楽しめる「ガストロノミーツーリズム」。旅先で食べたいものは、CO2を大量に排出しながら遠い場所から取り寄せた高級食材や、手の込んだ料理ではなく、訪ね歩いた土地で出会う人と採れたての食材が最高のごちそうだ。
日本は生産年齢人口が減少を続け、もう増えることはないだろう。地球温暖化で作物への被害は年々増大し、高齢化に伴う耕作放棄地の増加など、生産地の課題は深刻だ。将来50年、100年先まで、日本で今と変わらず美味しいものを食べて、地域で持続可能な営みを続けるためには、税金に頼るのではなく「農泊」が社会的産業として、都市部と地域の人々の交流を促し、行政コストの削減など直接的貢献を果たす時代がやってきた。
自然豊かな農村地域に「農泊」を作り、地元企業と大都市圏の企業集団が共同運営することで、地域全体の収益を上げ、経済循環を生み出し、幸せな暮らしを実現させようというのが私たちの狙いだ。
農泊DXと名付けた手法は、観光業、人材育成では当たり前だが、農村食文化の魅力を伝え、伝統産業も含めて観光資源とするために、効果的なビジネスモデルとなるだろう。その仕組みについて簡単に紹介する。
農林水産省が推進する「農泊」とは
インバウンドを含む国内外の観光客を農山漁村に呼び込み、地域の所得向上と活性化を図る事業で、日本全国621地域(R4年度末)に農泊がある。地域資源を磨き、魅力ある観光コンテンツを販売する取組や、古民家や廃校等を活用した滞在施設等の整備には補助金を活用することも可能。延べ宿泊者数は、平成29年度の約189万⼈泊から令和元年度には約589万⼈泊まで増加、コロナで減少したものの、令和7年度に日本全国の農泊で700万泊を目標としている。
農林水産省「農泊推進実⾏計画の参考資料」
農泊は6次産業
これまでジャムなどの加工品作りという6次産業が活発に行われてきたが、農泊も6次産業の1つ。地域が得る所得も大きく、顔の見えるコミュニケーションで、関係人口を増やすことにも繋がる。観光庁や内閣府のデジタル田園都市国家構想の中でも、同じ姿が目標とされている。どの補助金を使ったとしても、目標は同じ
サスティナブルツーリズム
コロナ以降の個人旅行は、物質的ラグジュアリーに大金を消費するのではなく、精神的ラグジュアリーを充たしてくれる地域の思いに共感し、宿泊しながら、土に触れ、サスティナブルな活動を通じて交流をする旅が人気だ。動物とふれあい、豊かな食事の時間を生産者と共にすることは、心に溜まった垢を落とし、ゆったりと幸せな感情を芽生えさせてくれるからだ。
農泊で生産者の意欲を上げていく
一次産業の様々な課題に対して、「農泊」をきっかけとして、都市部と地方の交流を促進させ、地域が一丸となって取り組むための体制整備が各地で進んでいる。
地方へ行くと「ここは田舎で、何も無いところだから」と言われるが、都会人にとっては、非日常で美しい景色に癒される。田園風景は生産者の営みで季節により違う表情を見せ、山々から湧き出る水、美しい滝、満点の星、虫の声、白樺の森、川のせせらぎ、瑞々しい農産物、優しくてフレンドリーな地域住民は最高の旅を演出してくれる。私は様々な地域を訪問し、現地の人々と仲良くなりSNSを通じてお互いの状況を遠くから見守り、季節が変わると違う食べ物、違う景色のSNS投稿に魅了され、再訪したいと思うようになる。私が生産者と交流し、感動体験を伝えると、彼らは自分の住む地域に誇りを感じ、伝統の食文化を守ることや、農業への意欲が上がっていくことが多い。よそ者との交流は、地域の魅力を再発見する良い機会になる。
LINKEDCITY農泊DX
2023年3月、北海道美瑛町で公益社団法人国際観光施設協会「LINKED CITY」参画企業のジョルテ他数社がファームズ千代田(美瑛町)と一緒に「びえい農泊推進協議会」を立ち上げた。共創プラットフォームで地域資源を磨き上げ、世界から注目される農泊観光を構築し、サスティナブルツーリズム、ガストロノミーツーリズム、ワーケーション、インバウンド対応など、魅力的で持続可能な農林水産業と観光業によるビジネスモデルを構築していく予定だ。
農泊に最適な形でICT技術を実装し、農泊におけるDXを実現することで我が国における農泊のフラッグシップモデルを実現させる。これにより、都市部を中心とした旅行者に対し農村地域の生活体験と地域の人々との交流をリアル、オンラインで体験してもらうことができ、その土地の魅力を、年間を通じて存分に味わってもらうことができる。
一方、農村地域住民にはデジタル化への意識改革を促し、農産物の美味しさを訴求する飲食、体験および食育等の事業で、地域所得向上を図り、地域活性化を実現させる。また、副業人材などを活用し、人手不足時代にも対応可能な持続可能な経済社会を実現、食と農の地域プロデューサーが地域交流を促し、デジタルマーケティングを活用しながら、地域住民と一体となった農泊を推進していく。
農泊DXで解決できる地域課題
- 地域利益の最大化
・農泊体験メニューを磨き上げ、ラグジュアリーな非日常体験を提供
・魅力的な雇用の創出と国内外との交流促進による収益最大化
・参画企業のマーケティングデータや、利用者履歴等を活用した戦略立案を行い、マーケティングを実践したうえで、戦略を自ら検討し実施できるように育成する。
- 農泊DXによる生産性向上
・デジタル人材の育成
・労働負荷軽減、労働時間短縮の推進
・スマートロックでオンラインチェックイン、チェックアウト
・宿泊体験予約管理システムによる情報管理と人員配置の効率化
・販売システムにより、ユーザビリティの向上
・利用者履歴等デジタルデータを活用した戦略立案
- サステナブル経済社会の実現
・サスティナブルに関心の高い30代以下を積極的に採用し、50年以上持続可能な体制を構築
・地位住民との交流を促進し、ワーケーション利用のリピーターを増やす。
- インバウンド対応
・多言語表示、キャッシュレス対応
・持続可能な観光の国際基準GSTC認証を取得し、外国人を含め、教養のある知識層をターゲットとして、通過型観光での消費機会損失を逓減させ、観光消費額を増加させる。
- 女性活躍推進
農産地は若い女性にとって魅力的な仕事が少ないことが課題。情報発信力、コミュニケーション力のある非農家の女性やママに魅力的な仕事を作る。ライフステージや家事、育児、介護との両立を図りながら、無理なく、やりがいのある仕事を続けられるようデジタルで環境を整えていく。
- 地域ぐるみで取り組む
地域住民、就労者、農泊協議会関係者の交流会やワークショップを定期的に実施し、信頼関係を構築。地域の農業や自然環境を守りながら地域全体が豊かになり、持続可能な農業と観光ビジネスの両立が実現できることの意識を醸成していく。
- 生産者と料理人をつなぐ
プロの目線で地域農産品を判断し、最適な料理方法を提案。その地域だからこそ味わえる土地の魅力を最大限に味わってもらうことを目指す。生産者と料理人が共に料理を作り、同じテーブルで味わうことで共に美味しい料理を作り上げる仲間意識を紡いでいく。
- トレーラーハウスの宿泊施設
農地転用の必要が無いトレーラーハウスを宿泊施設とすることで、生産者の負担を軽減。災害時に避難場所にもなるよう環境を整備。
生産者が大事に育てた旬野菜やフルーツ、「アニマルウェルフェア」認証ジャージー牛ミルクで作ったソフトクリーム、出来立てフレッシュチーズの美味しいこと!鮮度、空気、そして大地の温もりを感じながら食べるガストロノミーツーリズム、びえい農泊では食と農とSDGsをしっかりと感じて楽しんでもらえる体験型宿泊施設になる予定だ。
来年2024年秋、ファームズ千代田キャンプ場内にオープンします。楽しみにお待ちくださいね!