先日、農林水産省の専門家から、こんな質問を受けました。
「美瑛はガストロノミーの取り組みが、地域内外で十分に認知されているとは言えません。どのように誘客を考えていますか?」
観光客は年間240万人を超える美瑛ですが、その多くは「通過型観光」。
地域にお金が落ちず、また「ガストロノミー」という言葉や考え方は、地元でも十分に浸透していません。
この課題に対して、私たちは広告費をかけるのではなく、活動の内容そのものを丁寧に発信する方法を選びました。さらに、世界的なガストロノミーやサスティナブル分野のインフルエンサーにも協力いただき、彼らの発信力で認知を広げています。
欧米では広まりつつある「ガストロノミーツーリズム」や「サスティナブルツーリズム」ですが、日本ではまだ実践者は多くありません。集客は簡単ではないものの、この夏訪れてくださったお客様の多くが、私たちの理想とする“活動への理解がある方”でした。オーバーツーリズムに悩む地域だからこそ、人数は限られていても良い循環が生まれていると感じています。

1. ふれあい牧場 食の体験プログラム
ジャージー牛の乳搾りや、搾りたてミルクを使ったバター・チーズ・アイスクリーム作りは、アニマルウェルフェアや酪農の背景も学べる人気プログラム。
お客様からの料金を適正に値上げし、その分スタッフの給与をアップ。英語対応ができる人材も定着し、売上は過去最高の1.5倍に。
ふれあい牧場 体験プログラム
2. ペンション「かまいたい宿 one and only」
2023年に東京都から移住した料理人夫婦が開業。美瑛産の食材を中心に、発酵を生かした料理を提供しています。
農と食のジャーナリスト山本謙治さんのブログで紹介されたことをきっかけに、都内有名店関係者やテレビ番組にも取り上げられ、現在は予約困難な人気宿に。
やまけんの出張食い倒れ日記(記事)
3. ファームレストラン千代田
ふれあい牧場と合わせて訪れる家族連れが多く、「北海道で酪農体験と美味しい食事を両方楽しめる場所」として高評価。
待ち時間は長くても、牧場で動物と触れ合ったり、展望台から景色を楽しめるためクレームは少なく、教育熱心で礼儀正しいお客様が多いのが特徴です。
黒毛和牛とジャージー牛を育てるアバラゼデさん
4. 地域おこし協力隊から生まれたレストラン

2024年4月に移住した料理人チョンテウさんが、2025年8月に「Sim ~Restaurant&Food Lab~」を開業。
シェフ1グランプリ関東ブロック優勝経験を持ち、美瑛の生産者と共にテロワールを表現。
役場公募には落選しましたが、その姿勢を見ていた酪農家が離れを貸す提案をし、とうきび人形アトリエ横にオープン。完全予約制のコース料理は、地元・北海道産食材を中心に構成されています。

今後に向けて
私は美瑛だけでなく、東京・福島・宮崎・滋賀など各地でガストロノミー推進に関わっていますが、どの地域も「観光と農業の調和」という共通課題を抱えています。
美瑛の農家さんたちは、自分たちの農産物の価値を高めてくれる料理人を必要とし、私たちもその期待に応えたいと考えています。
ガストロノミーは時間のかかる取り組みです。しかし、地道に地域の生産者と共に活動できる料理人を教育し、彼らの作る料理や、生産者訪問時の活動を紹介し続けることで、地域の中にその価値が浸透し、観光の質を変えていけると信じています。ガストロノミーツーリズムで有名なバスクはスペイン料理の巨匠、ルイス・イリサール氏が料理学校の校長として数十年かけて、これを実践してきたのです。まだ私たちは3年、
これからも、美瑛でしか味わえない「食と風景の物語」を紡ぎ続けます。